花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
「大丈夫、いつもこんな感じよ。先に入らせてくれてありがとう」


「気にするな。それより俺が入浴している間にもう一度ちゃんと乾かすように。次からは俺がドライヤーをかける」


さらりと耳を疑うような台詞を残して、リビングルームを出ていく。


「今の……冗談よね?」


問いかけに当然返事はない。

とりあえず洗面所に戻って、もう一度ドライヤーを手早くかけた。

真後ろの浴室からはシャワーの音が響き、なぜか緊張してしまう。

急いで乾かして洗面所を出た途端、ドアの向こう側から依玖さんの声が追いかけてきた。


「すぐに行くから寝室で待っていて」


何気なくかけられた言葉に、鼓動が暴れだす。

一緒に眠るのも、肌を重ねるのも初めてではないのに、なぜかドキドキしてしまう。


ねえ、知らないでしょ?


あなたの一挙一動にこんなにも私が右往左往しているなんて。


取っ手を掴んだままの指を離した瞬間ドアが開き、濡れた髪をかき上げた彼が姿を見せた。

上半身は裸で、大きなタオルを手にしている。


「やっぱりまだいた」


ドアの前で立ち尽くす私の目を覗き込む彼は、いつもより妖艶で直視できない。


「顔、真っ赤」


そう言って、依玖さんが私の頬を指の背でなぞる。


「……相変わらず可愛いな、逢花」


額にキスをされ、私と同じボディソープの香りと湿った髪が触れる感触にピクリと肩が跳ねた。
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