花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
「おいで」


手首を緩く掴まれて、優しい声に誘われるように寝室に足を進める。

アクセントクロスにヘッドボードをぴったり付けたキングサイズのベッドが部屋の中心に置かれ、大きな窓には私の部屋と同じ木製のブラインドがかけられていた。

私をベッドへと促して、間接照明をつけた依玖さんもベッドに身を預ける。

ふたりで横になって向かい合うと、すぐに依玖さんが唇を重ねてきた。

優しく啄むようなキスは次第に深いものに変わり、パーカーのルームウエアを手早く脱がされる。

大きな熱い手が体に触れ、漏れる吐息は口づけで塞がれる。


「逢花」


とろりと蜂蜜のように甘い声と情欲のこもった視線に絡み取られ、体温が一気に上がっていく。

愛情は伴わない義務的な行為とわかっていても、繰り返されるキスと体温が嬉しくて恋しい。

同時にやはり満たされない切なさに胸の奥がじくじくと痛む。


恋愛が疎ましいなら、これ以上好きにさせないで。


優しく触れて、甘やかさないで。


本音を胸の奥にしまい込んで、彼の腕の中で引っ越し初日の夜を過ごした。
< 102 / 190 >

この作品をシェア

pagetop