花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
依玖さんと暮らして一カ月以上が瞬く間に過ぎた。

少し早めの梅雨明け宣言が出され、気温が急激に上がっている。

七月もまだ半ばだというのに連日うだるような暑さが続き、夏が苦手な凛は、冷感グッズを常に持ち歩いている。


「引っ越しと結婚を同時に聞かされて驚いたけど、仲良く暮らしているみたいね」


取引先からの帰り道、偶然駅で会った私たちは日陰を選びながら並んで歩く。


「依玖さんが自宅にいる時間は少ないし、仲が良いのかはわからないんだけど……」


「やっぱり多忙なのね、社長」


「うん、平日は帰宅が遅いし、土日祝日は急な会議やパーティーとかでほとんど外出している、かな」


生活をともにして、彼の激務を改めて知った。

基本的に新居に私はひとりで、食事も一応休日に主要なものを冷凍して平日は簡単な自炊をしている。

夕食をともにするのは難しくても、夜食ならと数回尋ねてみたが不要と断られた。

就寝だけが一緒で、彼の腕の中で目覚めるのが日常になった。

ベッドに入る時間は違うけれど、ほぼ毎夜抱かれている。

甘い声と執拗な愛撫にいつも勘違いしそうになって、胸が苦しくてつらい。

気を抜けば零れ落ちそうになる“好き”の二文字を何度唇を噛みしめて耐えたかわからないほどに。
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