花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
「結婚式も未定なんでしょ?」


「取引が関わるから加賀谷さんの挙式後にしたいそうよ」


「なんでそこまで元婚約者にお伺いを立てなきゃいけないのよ」


凛の指摘に返答に窮する。

名家同士のつながりや確執は、私にはよくわからず、深く追及できない。


契約結婚相手と挙式をしたくない? 


……加賀谷さんをまだ想っているから? 


後ろ向きな疑問が頭に浮かんで消えていくたびに、心の傷が深くなっていく。


「……とにかく、もう少しだけ距離を縮められるように頑張るわ」


悩んでいても現状は変わらない。

恋心を明確な言葉にできないならせめて、パートナーとして必要とされたい。


「色々気になる点は多いけれど……応援してるわ」


親友の激励を受け、苦笑しながら社に戻った。

その後も、依玖さんとの生活に大きな変化はなく、さらに半月ほどが過ぎた。

思った以上に仕事が長引き残業になった八月最初の金曜日、長くパソコンを見続けていた目は乾燥している。

会社を出た途端、熱気が一度に体に押し寄せ、げんなりする。

午後七時半を過ぎた今、休日前のせいか退社する人々の姿はまばらだ。

やはり夏バテなのか、今も食欲はあまりない。

依玖さんは取引先との接待で遅くなると連絡があったので、コンビニでサラダでも買おうかと思案する。
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