花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
「ご自身で運転を?」


「ええ、ひとりになりたいときが多いから。依玖と同じよ」


意外に思う私の心を見透かしたような返答だった。


「今さらだけどご結婚おめでとうございます」


唐突な祝辞に身構えると、彼女は慌てて手を大きく横に振った。


「嫌味じゃないわ。こんな風に押しかけて信用がないとは思うけれど、ずっと謝りたかったの。ごめんなさい、気を悪くしたでしょう?」


頭を下げられて驚き、顔を上げてほしいと早口で伝える。


「おふたりの仲に割り込んだのは私ですし、謝っていただく必要はないです」


「いいえ、違うのよ」


加賀谷さんが強い口調で否定し、話し出す。

婚約は名ばかりで、一年間友人として互いに協力していただけだと説明された。


「依玖とは気心も知れているし、もうこのまま友情結婚もありかなと多少の期待と情はあったんだけど、依玖は全然乗り気じゃなくて」


見事に玉砕、と笑って肩を竦める。


「ホテルで情けない姿を見せてごめんなさい」


みっともない電話の会話も聞かせちゃって、と先ほどとは一転した深刻な表情で付け加える。
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