花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
時間を置かずして結果が浮き上がり、胸の奥に熱い感情がこみ上げて視界が滲む。


「赤ちゃん……ありがとう」


震える両手でそっとお腹に触れると、涙が頬を伝った。

まだ確定していないとはいえ、嬉しさで胸がいっぱいになる。

使用済みの検査薬を片付けて、ひとまずリビングへと戻った。


「依玖さんに報告を……」


結果を知った安堵と感動で少し気が抜け、独り言を口にした瞬間、加賀谷さんと会った際の混乱を思い出した。


狼狽えていて当然のように帰宅したけれど……妊娠を喜んでくれる?


後継者を切望していたし、契約事項のひとつなのだから大丈夫よ。


でも“私との”赤ちゃんを望んでいる?


心の中で一問一答を繰り返すけれど、納得できる明確な答えは出てこない。


私はすごく嬉しいし、絶対に産みたい。


けれど、彼は? 


困った顔をされたら、平静ではいられない。

次々に不安が襲い掛かり、ギュッと両手を胸の前で握り合わせる。

夏だというのに指先が冷たくて、考えがまとまらない。


「病院を受診してから、話せばいいかな……」


弱虫な私はすぐに逃げ道を探してしまう。

力の入らない指先でスマートフォンを取り上げ産婦人科を検索し始めたとき、玄関ドアが開く音がした。

驚いた拍子にスマートフォンが床に滑り落ち、フローリングの床に鈍い音を立てて転がる。

リビングの壁掛け時計を確認すると八時半になったところだった。
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