花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
「……結果を教えてくれない?」


ああ、なんで洗面所を見直さなかったんだろう。


検査薬自体は捨てたけれど、箱は記憶がない。


まさかこんなに早くわかってしまうなんて。


わざと気づかせるために置いていたと勘違いされたら、どうしよう?


「わざと置いたんじゃないの、本当に、慌てていて」


「逢花」


「黙っているつもりはなかったの。でもまだ病院も受診していないから」


焦っているせいか、取っ手を握る指も唇も震えて、うまく言葉を紡げない。

こんな風に言いたいわけじゃないのに。


「逢花、こっちを向いて。大丈夫だから。わかっている、落ち着いて」


そう言って依玖さんは私の手首に優しく触れ、取っ手から外し、もう片方の手を腰にそえてゆっくり私の体を反転させた。


「検査結果はどうだった?」


真剣な表情で尋ねられ、覚悟を決めて口を開く。

ドクンドクンと鼓動が大きな音を立てる。


「赤ちゃんを、授かりました」


伝える声すらも震えてしまう。


お願い、困らないで。


どうか拒絶しないで。


心の中で強く願った瞬間、体が引き寄せられて広い胸に抱きしめられた。


「ありがとう」


よかった、本当に嬉しい、と何度もつぶやく依玖さんに思わず声が漏れた。
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