花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
「喜んで、くれるの……?」


「当たり前だろ? 逢花と俺の子どもだ、嬉しいに決まっている」


抱擁を緩めて、怪訝そうに私の顔を覗き込んでくる。


「ずっと体がつらかったんじゃないのか? ちゃんと言って、逢花は無理ばかりするから心配でたまらない。もっと俺に頼って、甘えてくれないか」


そっと大きな手に頬を撫でられ安心したせいか、恋心を押し込めた檻が綻んでしまう。


「なんで、そんな言い方するの……」


「逢花は俺の大事な妻だから」


躊躇いもせずに言い切られて、ぱんぱんに膨れ上がった想いが檻をどんどん壊していく。

“好き”が溢れて心に抱えきれず、恋心が唇からほろりと零れ落ちた。


「あなたが、好き」


胸が詰まって、そこから先の言葉をうまく紡げない。

もっと伝えたい気持ちはあるのに、こみ上げる涙に邪魔をされて声が掠れる。


「契約結婚だし恋愛感情が不要なのもわかってる。好きになっちゃダメだって何度も言い聞かせた……だけどどうしてもあきらめられなくて、そばにいたくて……」


必死に伝える声はさらに震えてみっともない。

なによりここで泣くのはズルい。


「好きなの……ごめんなさい」


契約違反で離婚になるかもしれない。

でも、この子だけはきちんと産んで育てたい。
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