花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
彼の反応が怖くてギュッと唇を噛みしめ下を向いた瞬間、顎を掬いあげられキスされた。


「噛むな、傷になる。以前にも言っただろ?」


ほんの少し唇を離して、問いかけてくる。


「謝るのは俺だ。ずっと苦しめて悩ませて悪かった」


大きな両手が私の頬を包み込んだ。


「好きだ」


「……う、そ」


耳にした言葉が信じられず、掠れた声が喉の奥から出る。


「嘘じゃない。初めて出会った日から惹かれていた」


コツンと私の額を自身のものと合わせて小声でつぶやく。


「自分の悲しさや痛みは後回しで、俺の心配ばかりして、傷ついているのに本心を隠して微笑む逢花を守りたいと思った。甘やかして、俺だけでいっぱいになればいいと願ったんだ」


至近距離から見た、彼の長いまつげが少し震えていた。

 
「初対面なのに離れがたくて、俺のものにしたいと本気で思った。そんな感情を抱いたのは初めてで、気持ちの正体に確信がもてずにいた」


そっと額を外し、私の目を覗き込んでフッと眦を下げる。

柔らかな視線に胸が詰まって声が出ない。


「逢花がいなくなった朝は焦ったし、自分でも驚くくらいに取り乱した。再会できたときはどうしても離したくなくて、触れたくて仕方なかった」


カッコ悪いな、と自身の手で口元を覆う依玖さんの耳元が、ほんの少し赤く染まっていた。
< 117 / 190 >

この作品をシェア

pagetop