花縁～契約妻は傲慢御曹司に求愛される～
「妻の会社を吸収するため、前もって異動させるつもりかと」


「突拍子がなさすぎるわ。当事者の私が聞いていないのよ？」


「本当か？」


うなずくと久喜は眉間に皺を寄せる。

困惑しているのは私のほうだ。　


異動ってどうして？　

そんな話は初耳だし、必要性もわからない。


今すぐにでも依玖さんに尋ねたい衝動に駆られ、久喜の感情を慮る余裕はなかった。


「……お前、幸せなのか？」


唐突な質問を理解できず、返答が一瞬遅れる。


「もちろんよ、どうして？」


「無理をしているんじゃないのか？　住む世界が違いすぎるし、異動も知らないなんてありえないだろ。お前との結婚は本命を誤魔化すためのカモフラージュじゃないのか？」


低い声で一気に捲し立てる元恋人に、呆気にとられる。


ひどい態度だったのはあなたでしょう？　


忘れ去ったはずの痛みがぶり返しそうになり、ギュッと拳を握りしめた。


「葵株式会社で何度も副社長と加賀谷さんがともにいる姿を見た」


「……取引先なんだから社内で会うのは不自然じゃないでしょ」


ドクンドクンと速まる鼓動に気づかない振りをして、早口で答える。
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