花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
「副社長室や会議室に、わざわざ人払いをして、ふたりきりで何度も会うのが自然か? 距離が近すぎるし、社内ではふたりの親密具合が暗黙の了解になっている」


衝撃的な事実に心が凍りつきそうになるも、必死に反論する。

一度裏切られた元恋人だが仕事関係では誠実なうえ根も葉もない噂を吹聴する人ではない。


「ふたりは学生時代からの友人なうえ仕事仲間で元婚約者だったんだから、親しいのは当然でしょう」


「既婚者と結婚を間近に控えた、地位のあるふたりの大人なのにか?」


真っすぐな質問に返答に窮する。


「昼間だけじゃなく、夜もふたりで外出する姿を数回目撃している。もちろん結婚後の話だ。副社長の結婚にはなにか事情があって、本命はやはり加賀谷さんではないかと専らの噂だ」


静かな声に、胸を深く抉られた気がした。

依玖さんと話し合って想いを確かめ合ったのだから、根拠のない噂に惑わされず、夫を信じればいい。

必死に自分に言い聞かせるけれど、植えつけられた不安要素は簡単に消えそうにない。


「良好な夫婦仲を隠れ蓑にして醜聞を避けるために、妻を異動させるんじゃないか?」


「まさか」


自信をもって言い返したいのに、声に力が入らない。

こんな態度じゃ久喜の思うつぼだ。
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