花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
「……なあ、逢花。俺たちやり直さないか?」


グッと低くなった声とテーブルの上に置いた拳に伸ばされた手に体が強張る。

瞬時に手を膝の上に動かして久喜を見ると、険しい表情を浮かべていた。


「馬鹿な話はやめて。私たちは既婚者同士よ。もうすぐ父親になるんでしょ」


きっぱり拒絶すると久喜は小さく首を横に振った。


「妊娠は結婚するための嘘だったんだ。婚姻届を提出する直前に判明して入籍をやめた。俺は独身だ」


寝耳に水の話に、瞬きを繰り返す。

驚いたが、心はまったく動かない。

ふたりで話しあって解決してほしいと願うのみだ。


「あれだけ盛大に結婚式も挙げたのだし、後はふたりの問題でしょ。私には関係ないわ」


妊娠が嘘だと久喜は口にしたが、故意かどうかはわからない。

検査薬の結果だけを信じた可能性だってある。自分が妊娠している今、複雑な気分になる。


「俺は騙されたんだ。妊娠していなかったらお前と別れなかった」


「最低だし、意味不明よ。浮気は事実でしょ?」


不愉快な気分になり、急いで席を立つ。


依玖さんの嫌な噂を耳にすれば、元鞘に戻るとでも?


馬鹿にしないでほしい。


「今後は仕事以外では一切話しかけないで」


キツイ口調で言い切ると、なぜか久喜は不満そうに顔を歪ませる。


「せっかく声をかけてやったのに、知らないからな。捨てられて泣くのはお前だぞ!」
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