花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
「うちとしては痛手だけど、一路さんの活躍を願っているよ」


人の好い上司を問い詰めても、答えは得られないだろう。

久喜にはこの数日間、顔を合わせるたびなにか言いたげな視線を向けられたが無視をしていた。

出張から帰ってくる日の休憩時に、依玖さんにメッセージを送ると午後九時前には帰宅すると返信があった。

夕食は不要だと記載があったので、会社から帰ると冷凍保存しているおかず類を解凍して簡単な食事を済ませた。

話に集中できるように先に入浴も済ませて、質問事項を反芻して待っていた。


もし、久喜の話を肯定されたら? 


ううん、私たちの想いは通じ合っているし、信じるって決めたでしょ? 


くすぶり続ける不安の種をつぶすように、心の中で強く反論する。

午後九時前になって、依玖さんが帰宅した。


「おかえりなさい、お疲れ様」


「ただいま」


いつものように挨拶を交わすけれど、どういうわけか態度がよそよそしい。


「話って……体調が悪いのか?」


リビングに続く廊下を歩きながら尋ねる彼に、首を横に振って否定する。
 
疲れて帰って来た早々質問攻めにするのも気が引けて、風呂をすすめたが先に話したいと言われ、ふたりでリビングのソファに並んで腰かけた。
< 128 / 190 >

この作品をシェア

pagetop