花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
「ふたりきりで食事をとっていたと聞いた」


「誰が、そんな話を?」


「立川が逢花の異動スケジュール確認のために出向いていたんだ。そこでふたりがやたら深刻そうに話して、痴話喧嘩をしていると下世話な噂を耳にしたそうだ」


とんでもない伏兵に思わず眉根を寄せた。


「話があると言われて仕事の件だと思ったから相席しただけよ。話の内容が……」


「誤解されるような行動は慎んでほしい」


一瞬躊躇ったが、やましくもないので事情を話そうとしたところ強い口調で遮られた。


「なんで、そんな言い方を? 依玖さんだって加賀谷さんと社内で話したりふたりになったりするでしょ?」


久喜からの情報がよぎり、ほんの少し試すように尋ねる私は、嫌な女だ。


「俺とあいつの話は関係ないし、俺たちはビジネスパートナーだ」


「私たちだって、一応同僚よ」


「お前たちと俺たちでは立場も見られ方も違う」


なにが、どう違うの?


雰囲気が悪化するのをを感じたが、後に引く気にはなれない。


「詳細を伏せてはいるが、逢花はもう葵家の人間なのだからもっと周囲に気をつけろ。今さら関係解消はできないんだ、妙な考えを起こすなよ」


冷たい声が刃のように鋭く胸の中に刺さり、思わず聞き返す。


「関係解消って、なに……?」


「俺と逢花の結婚に決まっている」


「異動について聞きたいだけなのに、なんでそんな話になるの?」


「自分の行いを反省しろと言っている」


疲れたように軽く目を伏せ、額に綺麗な指をあてる。

逸らされる視線がつらい。
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