花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
両想いだと浮かれていた私はなんて馬鹿なんだろう。


情けなさに打ちひしがれていると、彼のスマートフォンが着信を告げた。

画面を確認する表情が変わる。


「……電話に出て。疲れているのに時間を取らせてごめんなさい」


必死に平静を装い、絞り出した声は掠れていた。


「悪い。また後で話そう」


先ほどまでと一転した穏やかな声に、力なく首を横に振る。


「明日、早いから先に休みます。おやすみなさい」


「待て、逢花……!」


引きとめる彼の言葉を最後まで聞かず、踵を返して自室に向かう。

一緒に眠らなきゃいけないのがつらくて苦しい。

両想いが幸せだなんて、嘘だ。

自分に都合の良い想像ができた片想いのほうが幸せだった。

遠回しに拒絶されているのに、なんでまだ好きなんだろう。

想い続けていれば好きになってもらえると期待していた、自分の滑稽さを笑いたい。

気づかない振りをしていた現実、我慢していた感情が涙とともに溢れだして、力なくソファに座り込んだ。

今日くらい、ここでひとりきりで眠りたい。

体を冷やさないように、薄手のブランケットを体にかけて背もたれに体を預ける。

なにもかも考えるのに疲れて、ゆっくりと目を閉じた。
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