花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
「初めまして、一路逢花です。本日よりよろしくお願いいたします」


残暑厳しい九月初旬、私は旧姓で葵株式会社営業企画部に異動した。

既婚者で妊娠中というのは隠していないが、ここでも前勤務先同様に夫の存在は上層部と直属の上司以外には知らされていない。

そもそも彼とは利用フロアも違い、上層部参加の会議以外で顔を合わせる機会はおろか、言葉を交わすこともない。


「ようこそ、営業企画部へ。こちらこそこれからよろしく」


企画部の人たちに優しく迎えられ、新たな毎日が始まった。

私の三歳上の先輩が指導係となり、備品や書類の保管場所から仕事内容までを丁寧に教えてくれた。

さらに親切な同僚たちのおかげで、思った以上に早く新しい職場に馴染めた。

異動して数日が経ち、差し入れのお菓子が給湯室の冷蔵庫に入っているのでどうぞ、と言われ、昼休みに給湯室に向かった。

営業企画部と総務部は同じフロアにあるため、給湯室も共用で使用し、管理している。


「私、昨日受付で社長と奥様の結婚式はいつなのかってお客様に尋ねられたんだけど」


「唐突な質問ねえ」


「あら、私もたまに聞かれるわよ」


総務課の女性たちの声が聞こえてきて、給湯室の入り口近くで足が止まった。

うちの総務課の女性は、受付業務をローテーションで組んでいると以前先輩から教えられた。
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