花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
呼吸が苦しくて、胸が張り裂けそうに痛い。

これがきっと世間一般の、当たり前の反応なのだと思い知る。

私は妻として紹介されたり、公の場に一緒に参加や出席したことが一度もない。

現実を、またひとつ突きつけられた気がした。私は、なんのために妻でいるのだろうか。

無意識にほんの少しふくらんだお腹に指で触れる。


赤ちゃんが産まれたらどうなるのだろう。


彼の契約目的は達成したのだから……離婚を切り出される?


公の場に姿を見せていない私との離婚はきっと簡単だろう。


もしかして、そのために行動をともにしないの?


不安に押しつぶされそうな胸の内をどこに吐き出していいかわからず、その場にしばらく佇んでいた。

暗い思考を抱いたまま、半月があっという間に過ぎた。

今日は前勤務先のプロジェクトメンバーと会議があった。

給湯室で耳にした件も含め、依玖さんにはいまだ話せずにいるが、以前のような冷たい会話は繰り返したくない。

会議は思った以上に率直な意見交換の場となり、問題点や改善点、新たな案が噴出していた。

予定時刻を少し過ぎた打ち合わせを終え、自席に戻り早速対策に取り組んでいた。

同じプロジェクトを担当している先輩はほかにも案件を抱えていて、打ち合わせ終了後、急いで次の取引先へと向かっていった。
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