花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
「どうしても守りたいし、失いたくない。そばにいたいんだ」


「わかってるわ。同じ気持ちだから協力しているのよ」


決定的なひと言に、目の前が真っ黒に染まった気がした。

早鐘を打つ心臓が痛くて吐き気がする。


依玖さんと加賀谷さんは今も想いあっているの?


決定した挙式って……まさか依玖さんと加賀谷さんの、なの?


「時期をみてと考えていたが、もう悠長にしていられないな」


「ふたりの明るい未来のためなんだから弱気は禁物よ」


「……そうだな」


端的な返事が、鋭い矢のように胸に刺さる。


「ところでなんで今日は副社長室じゃなく、会議室なの?」


「俺たちの妙な噂が流れているから場所を変えろと、誠に忠告されたんだ」


「さすが有能秘書ね。依玖と隣同士に座るって初めてじゃない?」


仲睦まじく笑うふたりの会話をそれ以上聞く気概はなく、力の入らない足を無理やり動かして踵を返す。

胸が痛くて苦しくて、泣きたいのか叫びたいのかわからない。

乱れた思考をまとめられないまま飛び乗ったエレベーターで、強く唇を噛みしめて涙をこらえた。
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