花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
自宅に戻り、自室に入ってバッグからスマートフォンを取り出す。


【今日の帰りは遅くなる?】


短い文を作成するのに悩んでずいぶん時間がかかってしまい、やっとメッセージを送信すると緊張のせいか妙な疲労を感じてしまった。


【どうした?】


時間を待たず、すぐに返って来たメッセージに鼓動がひとつ大きな音を立てた。

早い反応が嬉しくて、泣きたくなる。


【話があるので、時間をください】


【できるだけ早く帰るようにする】


スピーディーで端的なメッセージと、対応してくれる姿に彼の関心が少しでもまだ残っていると感じ、安堵する。

スマートフォンを胸に抱きしめて、なにを、どの順番で話そうかと先ほどまでとは違う緊張を抱えながら考えた。

リビングの壁掛け時計が午後十時を示す。

依玖さんとのやり取りの後、冷凍庫に保存していた総菜類で慌ただしい夕食を済ませ、足元に気をつけつつ、できるだけ急いで入浴した。

髪を乾かし、済ませなければいけない用事は終わらせて、雑誌を読みながら待っていた。

少し前にも同じような状況があったなとぼんやり思い出す。

午後十一時を過ぎたが、依玖さんは帰宅していない。

急な仕事が入ったのか、なにか緊急事態が起こったのかもしれない。
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