花縁～契約妻は傲慢御曹司に求愛される～
やきもきしているとスマートフォンがメッセージを受信した。


【悪い、急な仕事が入って今夜は帰れそうにない】


文章を読んだ後、ギュッと目を瞑った。

深呼吸をしてもう一度文字を目で追うと、ぽたりと液晶画面の上に水滴が落ちた。


「あれ……なんで」


画面を指で拭い、自分が泣いていると気づく。

胸を締めつける痛みが苦しくて、大きく息を吸った。


「急に話したいと言ったんだから、仕方ないわ。仕事が長引いたのかも。でも、事故とかにあっていなくて無事でよかった」


不安と悲しみに揺れる心中を誤魔化すかのように発した声は、震えていた。


「大丈夫って返信しなくちゃ」


白々しい明るい声が、がらんとしたリビングに響く。


【お疲れ様。気にしないで】


機械的に打ち込んだ文字を送信し、明日の予定を確認しようとしたところで、明日は自分の歓迎会兼懇親会だったと思い出す。

前勤務先の送別会を断った旨をなにかの雑談の際に話したところ、心優しい先輩や同僚たちがそれならば堤インテリアのメンバーも交えて懇親会もどきをしようと誘ってくれたのだ。

妊娠中の私の体調を加味し、社内のホールのひとつを使って気楽かつ短めのものにしようと細やかな配慮もしてくださった。

食事類はデリバリーを利用するので食べれるものを教えてと私の希望を最優先してくださる先輩の温かさが嬉しかった。
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