花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
【明日、話そう】


届いたメッセージをスクロールする指が止まる。

埋め合わせをしようとしてくれているだけで喜ぶべきなのに、暗い感情がひょっこり顔を出す。


「今、誰といるの……?」


一番尋ねたい事柄は、声に出せても文字にできない。

数時間前に耳にした会話を思い出す。


あのまま、ずっと一緒にいたの? 


本当に仕事なの? 


もしかして、ふたりでベッドの中にいる……?


最低な想像が膨らんで、思わず頭を横に振る。 

疑いたくないのに、醜い感情をコントロールできない。


「好きって言ったくせに、なんで……!」


人の気持ちは簡単に変えられないし、どうしようもないとわかっているのに。


「加賀谷さんを想っているならなんで、期待させるような真似をするの……!」


本人にぶつけられない感情を吐き出す。

意味がないとわかっていても言葉にするのを止められなかった。

騙されていても、私への恋情がなくても、彼への想いを断ち切れない自分が嫌になる。


自分の中の小さな、身勝手な賭けだった。

もし今日帰宅してくれたなら、話ができなくとも、些細な約束を守ってくれたなら、このまま信じようと決めていた。

少し前から嚙み合わずにすれ違っていた関係も、話し合って修正したいと願っていた。

だけどもう、心が折れてしまった。
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