花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
明日の懇親会の後で、話す気力も希望もきっと残っていない。

そもそも明日だって帰ってくるのかわからない。

なにより今、顔を見て冷静に話せる自信がない。

口を開けば加賀谷さんとの関係を疑う言葉が真っ先に出てきそうで怖い。


私は、これからどうしたいんだろう。


なんで、こんな風になってしまったんだろう?


ただ、好きで、そばにいられるだけで幸せだったのに。


ひとりで始めた片想いだったのに、ふたりで過ごせる両想いを知ってどんどん弱く、醜く、欲張りになってしまった。

恋が、いつでも綺麗でキラキラしたものではないとこんな形で知りたくなかった。


「ごめんね、弱いママで」


お腹に震える指で触れてつぶやく自分が情けなくて、大嫌いだ。

翌日の金曜日、寝不足で重い体を引きずるようにして出社した。

散々泣いた瞼は重たく、厚めの化粧でなんとか誤魔化したけれど不自然さは否めない。

出社前にスマートフォンに依玖さんからのメッセージが届いていたが読まなかった。

もし離婚を切り出されたらと心の準備ができない。

昨夜は最悪の可能性を考えて、寝付けなかった。

離婚が避けられないなら、せめて自分から身を引きたいと夜中に離婚届を検索する私はなんて愚かなんだろう。
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