花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
「すぐに付近を捜したんですけどいらっしゃらず、申し訳ございません」
責任を感じて謝る女性に気にしないよう伝える。
そもそも訪問客に見当がつかないし、約束もしていない。
階下に来る前に取引先をざっと確認したが、該当者はおらず、もう一度後日時間をかけて調べようと決めた。
「そういえば、雰囲気が少し一路さんに似ている方でした」
受付の女性に言われ、もう一度エントランス付近を捜す。
だがそれらしき人は見当たらず、受付に礼を告げてフロアへと引き上げた。
定時退社時刻を過ぎているため、受付の方々も私が戻る際には片付けを始めていた。
エレベーターを降りてフロアに足を踏み入れると人気がないせいか、いつもとは違う静寂が漂っていた。
IDカードを使用してセキュリティロックを解除し、営業企画部内に入ろうとしたところで背後から声をかけられた。
「お疲れ様です、先輩」
「か、笠戸、さん? なんで、ここに」
予想外の人物の登場に驚く私とは対照的に、彼女はとても落ち着いていた。
「先輩とふたりだけでお話ししたくて待っていたんですよ」
「ここは、部外者の立ち入り禁止よ」
慌てて開けたガラス扉を閉じようと手を伸ばすより早く、彼女が私の腕を強い力で掴んで課内へと引きずり込んだ。
責任を感じて謝る女性に気にしないよう伝える。
そもそも訪問客に見当がつかないし、約束もしていない。
階下に来る前に取引先をざっと確認したが、該当者はおらず、もう一度後日時間をかけて調べようと決めた。
「そういえば、雰囲気が少し一路さんに似ている方でした」
受付の女性に言われ、もう一度エントランス付近を捜す。
だがそれらしき人は見当たらず、受付に礼を告げてフロアへと引き上げた。
定時退社時刻を過ぎているため、受付の方々も私が戻る際には片付けを始めていた。
エレベーターを降りてフロアに足を踏み入れると人気がないせいか、いつもとは違う静寂が漂っていた。
IDカードを使用してセキュリティロックを解除し、営業企画部内に入ろうとしたところで背後から声をかけられた。
「お疲れ様です、先輩」
「か、笠戸、さん? なんで、ここに」
予想外の人物の登場に驚く私とは対照的に、彼女はとても落ち着いていた。
「先輩とふたりだけでお話ししたくて待っていたんですよ」
「ここは、部外者の立ち入り禁止よ」
慌てて開けたガラス扉を閉じようと手を伸ばすより早く、彼女が私の腕を強い力で掴んで課内へと引きずり込んだ。