花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
「でも、今からは先輩が当事者になるのよ」


「ありえないわ……!」


恐ろしい真実を知り、震える声で反論すると、バシンと頬を打たれた。

突然の強い衝撃に頭がくらりとし、ジンジンと痛みが広がる。


「何回も勝手に発言しないで。いい? 似た人間なんていらないのよ。あなたのものは全部私が奪うの、というより元々私のものなの、だから返して」


今日だってこんな地味な格好嫌なのに、と悪態をつく。

めちゃくちゃな言い分に言い返したい気持ちをぐっとこらえる。

もう一度叩かれたくないし、なにより赤ちゃんに悪影響を及ぼす事態になるのは避けたい。

私の妊娠に気づいているのかわからないが、知らないならこのまま隠したい。

今日は胸から下がふわりと広がるワンピースにジャケットという体型がわかりにくい服装をしていてよかった。


「なのに社長と婚約? そんなの認めない! 玉の輿に乗るのは私よ」


「まさか、うちに入社したのって……」


思わず声が漏れると、蔑んだ視線を向けられた。


「仕事の地位も信頼も、婚約者も全部奪うためよ。久喜くんだってすぐに私に靡いたでしょ」


あっさり告げられ、血の気が引く。

どうやって自分の虜にしたか、その手練手管を滔々と説明する。

あまりに赤裸々な内容に耳を塞ぎたくなった。

できる限り聞き流しながら、どうやってこの場を乗り切ろうかと必死に考える。
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