花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
「すぐ周囲にバレるわ」


「社内の人間は懇親会に参加しているし、誰も気づかないわ」


なんと笠戸さんは、今日出張の久喜のIDカードをこっそり持ち出し、忍び込んだらしい。

そして総務課に寄り、堂々と台車と段ボール箱を私の振りをして借りたという。


「マスク姿でうつむいて小声で話して、服装も懇親会のために着替えたって話したらだれも疑わないの。警備も大概だけど、あなたの存在感がなさすぎて笑っちゃう」


確かに髪型も髪の色も私とよく似ている。彼女の執念が恐ろしくなった。


「なんで今日が懇親会だと知っていたの?」


「聞いたからよ。あの男、私が妊娠していないと知った途端、騙された、入籍しないとか言い出してね。結婚式まで挙げておいて恥をかくのは私よ!」


再び興奮した様子で笠戸さんは久喜の悪口をつらつらと述べ始める。

どうやら私に関する情報はすべて久喜から得ていたらしい。

一応一緒に暮らしてはいるが、関係は破綻していたという。


「相手をしてあげただけでも感謝してほしいのに、あなたに謝って会社にすべてを打ち明ける、祝儀も全部返すですって! 冗談じゃない! 最近は一緒の写真すら撮るのを嫌がるうえ、なにも買ってくれなくて更新も滞っているのに!」


SNSのフォロワー数なども最近は減少し始めて、否定的なコメントが増え、得られる収入が減ってきているそうだ。

私自身はSNSに明るくないのだが彼女には死活問題らしい。

自業自得だとと喉元まで出かかった言葉を必死に呑みこむ。
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