花縁～契約妻は傲慢御曹司に求愛される～

話したい事柄も伝えたい気持ちもたくさんあるのに胸が詰まってうまく話せない。

なによりも体の節々が痛くて重い。


「無理に話さなくていい。頬が腫れてるし、腕も足も傷ついて……クソッあの女！」


素早く紐を切って、そっと私の手首や足首の状態を確認しながら彼が悪態をつく。

さらに壊れ物に触れるかのように私の頬を撫で、傷ついた表情を浮かべた。

初めて目にする姿に驚く私を尻目に、彼は忙しなく全身に視線を這わせる。


「平気よ、ほかにケガはしていないわ」


安心させたくて告げると、泣きそうに顔を歪めた彼の腕の中に閉じ込められた。

そのとき、ひときわ大きな金切り声が聞こえてきた。


「私は悪くない！　私が一番なの、正しいのよ！」


「いいからこっちに来なさい！」


視界の片隅に警備員らしき人に両脇を抱えられ、ヒステリックに叫びながら連れていかれる笠戸さんの姿が映った。

髪を振り乱し暴れている姿に縛られた恐怖心が蘇り、体が震える。


「逢花、大丈夫、もう終わったんだ」


そう言って、彼は私をさらにギュッと強く抱きしめる。

けれど味わった恐怖と混乱が安心したせいか一気に押し寄せて目眩がして、目の前が段々暗くなっていく。


「……逢花？　逢花！」


大丈夫、と返事したいのに体が鉛のように重くて動けず、意識を手放した。