花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
11.ただ大事にしたかった SIDE依玖
「逢花? 逢花!」


腕の中で意識を失った逢花に何度も呼びかける。


「依玖、早く病院へ! すぐ車を出す」


俺がフロアに踏み込んだ直後に入って来た誠が、早口で叫ぶ。


「わかってる……!」


焦り、不安、腹立ちを抑え込んで逢花の体を抱え上げる。

救急車を呼ぶより早いと判断してかかりつけ医のもとへ急ぐ。

自分の車を出そうとすると、今の心理状態で絶対に運転するなと秘書に厳命された。

車中から連絡を入れていたおかげですぐに対応してもらえたが、逢花の診察、処置が終わるまでの時間が永遠と思えるほど長かった。


……なんで、こんなことに……!


逢花が行方不明との一報を受けて以来、何度思ったかわからない。

グッと唇を嚙みしめたが、痛みはまったく感じない。

逢花の受けた恐怖や痛み、苦しみとは比較にならない。

こんな事態を避けるために動いてきたはずなのに、結果として最悪の状況になってしまった。

逢花の後輩は悪知恵が働くうえ、勘の鋭い女だった。

前勤務先というしがらみを持つ美津と協力し、一刻も早く捕まえるため何度も打ち合わせてきた。

悟られないよう事を進めていたはずだったが、俺たちは彼女の心の闇に気づいていなかった。

逢花が消え、高野に笠戸について問うと衝撃の事実を聞かされた。

笠戸は逢花を一方的に妬み、恨み、自分の不運すべてが逢花のせいだと思い込み、逆恨みに近い感情を抱いていた。

あまりの身勝手さに怒りを抑えられず、目の前が真っ赤に染まった。
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