花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
高野は事の重大さを理解しておらず、詐欺の件も知らなかった。


「もっと早く高野から詳しい話を聞いていれば……!」


「落ち着け、笠戸は高野を隠れ蓑にしてこれまでの悪事を誤魔化していた。高野は自分の知っている事柄が、重要情報だと思っていなかったんだ」


自分を責めるな、と廊下に並ぶベンチに腰掛けた誠に諫められた。


「俺は夫だ、守ると約束した! 逢花が高野の話をしていたときに、馬鹿な嫉妬なんかせずに耳を傾けるべきだった……」


逢花が元婚約者と深刻そうに話していたとの報告に冷静さを失った。

気にする必要はないとわかっているのに、万が一奪われたらと、荒れ狂う心のままにつらく当たってしまった。


「自分がこんなに余裕のない、狭量な男だと思わなかった」


項垂れると、親友は小さく息を吐いた。


「依玖がここまで誰かに溺れると思わなかったよ。でも今のお前のほうが人間味があって魅力的だぞ。お前を変えてくれた奥様には感謝しかない」


「……逢花は俺になにも求めなかった」


つぶやく声が人気のない廊下に響く。
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