花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
幼少の頃から周囲には完璧さと与えられた物事の結果を求められた。

勉強、習い事、仕事……成長とともに求められる種類や数が変わっていくだけで、繰り返されることはいつも同じだった。

それがこの家での役割なのだと割り切っていたので、特に反感を覚えなかったが、心は常に空虚で、自分がなにをしたいのか、なにが正しいのかなどと考えもしなかった。

優秀さをもてはやされ、そつなくこなしていても満たされなかった。

なにかに心を動かされ、必要とする感情などなく、自分はこのまま人生を終えるのだと思っていた。

生家が有名なせいか、俺の情報などある程度は簡単に収集できる。

俺の容姿や背景だけを見て寄ってくる人々にまったく興味はない。

こうしてほしい、こうであるべきとやたら自分たちの希望や主張を押しつけられる毎日に辟易していたが、成人する頃には抗うのをやめた。

むしろそれらを逆手にとって陥れられないように計算高く生きていこうと決意した。

冷めた感情を内面に隠して表面上を取り繕う、代り映えのしない重苦しい毎日の中、逢花に出会った。

同じ社会人なのに、なぜこれほど真っすぐなのか、もしや毛色の違う誰かからの罠なのかと本気で最初は疑ったくらいだった。

俺を知らない、知ろうともしない姿に興味を持った。

濃い化粧やキツイ香水を身にまとわず、考えを素直に態度や表情に表し、厚意を真っ直ぐに受け止める。

それなのに体まで重ねた相手に自分をさらけ出さず甘えようとも、媚ひとつ売らない。

不器用な生きざまに守りたい、もっと知りたいと初めての感情が湧きあがった。
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