花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
彼女はなにも求めずにいつも受け入れてくれていたのに。

求められ続けるだけの行為がどれだけ苦痛か、一番俺が理解していたはずだったのに。


脳裏に逢花の寂しそうな笑顔が浮かんだ。

花束を渡したときのように、明るく無邪気な笑顔を見たかっただけだったのに。


「逢花……悪かった……」


今すぐに伝えたい。胸の奥が苦しくて痛くて、絞り出した声は震えていた。

一番大切にすべき人を傷つけた。

ぽん、と親友が慰めるように俺の肩を叩いた。


「奥様が目覚めたらきちんと謝って、話さずにいた事柄全部と本心を伝えろ」


「……ああ」


誠に指摘されなければ気づかない自分は、どれだけ未熟なんだろう。

俺はいつの間にか思い上がった人間になっていた。


逢花、お願いだ。


どうか無事に目覚めてほしい。


そして謝らせて。


愚かな俺にもう一度だけチャンスをくれないか。


お前と赤ちゃんをこれから先ずっと守りたい。


誰より愛している。


お前がいなければ、もうどうやって生きていけばいいかわからない。
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