花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
12.もつれた恋のほどき方
夢の中で何度も自分の名前が呼ばれた気がした。

悲痛さの滲む声が気になって、どうしても慰めたくて、体を一生懸命動かす。

必死に重い瞼を持ち上げた瞬間、目に映ったのは真っ白な天井と壁、見知らぬベッドだった。


「葵さん! 気分は悪くないですか? どこか痛みますか?」


小柄な看護師が私の顔を覗き込みながら、尋ねてくる。


「大丈夫です……あの、ここは? 私、どのくらい眠って……」


「ここは病院です。昨夜会社内で倒れて、ここに運び込まれたんですよ。今は午前八時です」


そう言って、看護師はゆっくりと現状について教えてくれた。


そうだ、私、フロア内で笠戸さんに捕まって……!


「あの、赤ちゃんは! 夫は、無事ですか?」


一気に様々な出来事を思い出し、焦って看護師に問いかけると、彼女は落ち着いてと私を窘めた。


「お腹の赤ちゃんも旦那様もご無事ですよ」


「よかった……」


そっと布団の上からお腹を撫でる。 

勢いよく起き上がろうとしていた私の体を、そっと起こしてくれた看護師が思い出したように微笑んだ。


「旦那様と先生をお呼びしてきますね。ずっとそばで手を握られていて、とても心配されていました。一旦休むか帰るように伝えてもいっこうに聞き入れられなくて。余程奥様が心配で大切なんでしょうね」


今、お電話中で席を外されています、と付け加えて看護師は病室を出ていった。
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