花縁～契約妻は傲慢御曹司に求愛される～
「今すぐ連れ帰りたい」


「――それは俺の診察が終わってからな」


突如割って入った声に驚くと、彼の背後に長身の医師が立っていた。

扉を開け放したままだった現状に、気づき恥ずかしくなった。


「タイミングが悪い男だな」　


「うるさい、病人に無理をさせるな」


気安いふたりのやり取りに目を白黒させていると、これまたいつの間にか病室に入ってきていた立川さんがこっそり教えてくれた。


「あのふたり、幼なじみなんですよ。ああ見えて仲が良いし、先生の腕は確かですから安心してください」


私を診察してくれた医師は、この病院の跡取り息子らしい。

幼なじみの緊急事態を冷静に受け止め、私を速やかに受け入れて治療してくれたそうだ。

ちなみにここは彼の実家のかかりつけ病院であり、医師は彼の担当医だという。


「奥様、診察させてくださいね」


優しく穏やかな声の医師に診察されている間、依玖さんはずっとそばにいてくれていた。

医師に一旦外に出ろと言われていたが、彼は聞き入れなかった。

私は昨夜様々なショックと、落ち着いて眠れていなかったせいもあって気を失ってしまったそうだ。

頬以外に大きな外傷もなく、赤ちゃんも無事なので、今日中に退院してよいと言われてホッとした。
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