花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
その後、先生や看護師に礼を告げ諸々の手続きを終えて立川さんの運転で自宅へと戻った。

立川さんにも迷惑をかけた謝罪と礼を告げると、真剣な表情で今後とも副社長をお願いいたします、と言われて慌ててこちらこそよろしくお願いしますと頭を下げた。

私の無事を喜んでくれる周囲の姿に、心の中が温かくなった。

遅めの昼食を病院近くで済ませた後、自宅マンションに送り届けてくれた立川さんは私たちに今日はゆっくり休むようにと厳命し帰った。

依玖さんが事後処理の傍ら、一晩中私に付き添う一方で立川さんは依玖さんをフォローしつつ少々仮眠をとっていたそうだ。

あまりのハードスケジュールぶりに、早く休んでほしいと言うと依玖さんは困ったように眉尻を下げた。

立川さんも大丈夫だろうか。


「大変な目にあったのは逢花だろ。俺は平気だ」


「依玖さんの体がなにより大切なの。大事な人の心配をするのは当たり前でしょう」


エレベーターを降りて、自宅の扉を開けた依玖さんに返答すると、強く抱きしめられた。


「やっとふたりきりになれた……もう一緒に帰ってこれなかったらと怖かった」


初めて聞く弱音に、心が揺さぶられる。


「おいで。話をしよう」


抱擁を解いた依玖さんが、私の体を気遣って靴を脱がせる。

大丈夫と何度も断ったが心配だからと譲ってくれなかった。

自身の靴を手早く脱ぎ捨てそっと私の手を引く。

一日帰宅しなかっただけなのに、足を踏み入れたリビングがとても懐かしく感じた。
< 169 / 190 >

この作品をシェア

pagetop