花縁～契約妻は傲慢御曹司に求愛される～
「加賀谷さんを好きなんじゃないの……？」


「は？　ありえない」


怪訝な表情を浮かべる彼に、今まで胸の奥に留めていた不安や疑念を、先日の会議室での会話も含めて、吐露する。

一度口に出すと堰を切ったように溢れ出してしまう。


「……悪い。誤解させた俺の責任だ」


そんな私に嫌な顔ひとつせず、謝罪を口にし、ひとつひとつ説明してくれた。


「まず結婚式の延期は、上層部の逢花への疑念を完全に払拭したかったからだ。不安にさせたくなかったし、笠戸の件もあって安全を確保したかった」


そう言って、そっと私の頬に大きな手で触れた。

加賀谷さんの挙式が先云々は、事実を伏せるための言い訳だったらしい。


「パーティーや式典も同じ理由だ。大事な体の逢花に負担をかけたくないし、守りたかった」


「言ってくれたらよかったのに……」


「啖呵を切って強引に結婚したのに、身の安全を保障できない夫なんて最悪だろ」


トンと彼が私の肩に軽く頭をもたせかける。

じわりと触れる温かさが嬉しくて胸の奥がくすぐったくなった。


「もうひとつ……逢花を周囲に見せびらかしたかったが、誰かに奪われるのが嫌で見せたくなかった」


早口で告げられて、瞬きを繰り返す。

艶やかな髪の隙間から見える彼の良い耳がほんのり赤く染まっているのを目にして、カッと体が熱くなった。
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