花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
「私もあなたを愛しているわ」


「俺は義務で人を愛して、優しくできるような男じゃない。契約結婚だって逢花をなんとか手に入れたくて、必死に考えた苦肉の策だったんだ。失恋で傷ついたお前に負担をかけたくなくて、な」


困ったように眦を下げる彼にうなずく。


「恋愛感情は不要、ずっとそう思って、虚勢をはっていた。でも、お前だけはどうしても手離したくなかった」


「全然……気づかなかった」


なんできちんと彼の言葉と態度の意味を考えなかったんだろう。

最初からこんなにも大きな愛情と優しさを向けてくれていたのに。

自分の気持ちに精一杯で表面しか見ていなかった。 


「誤解をさせたのは俺だ。謝らなくていい。……笠戸の話をしていいか?」


突如出てきた名前にびくりと肩が跳ねると、宥めるように、彼が私を抱きなおした。

ある程度は、病室で聞いていた。

依玖さんは、ずっと証拠を得るために加賀谷さんと動いていたと説明も受けた。

私が勘違いした会議室の会話も、頻繁にふたりで会っていたのも、笠戸さんを油断させるためだったそうだ。

笠戸さんが妊娠しておらず、久喜との仲も破綻していること、依玖さんを狙っている現状もすべて把握したうえで、行動していたという。

なにもわかっていない久喜を利用して、依玖さんや私に関する情報を得ていた点を逆手にとったうえでの作戦だったそうだが、まさか社内に侵入して私を拉致するとは思わなかったらしい。
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