花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
「あのとき、逢花が殴られそうになっているのを見た瞬間、心臓が凍りついた」


病室でも何度も告げられた台詞をもう一度口にする。

私が腕の中にいるのを確認するかのように、こめかみに柔らかく口づけられた。


「あんな怖い思いは二度としたくない」


依玖さんが少し席を外した際に、立川さんが私が倒れた際の依玖さんの取り乱しようについて教えてくれた。


『どんなときも冷静沈着な副社長の、焦って、怒りと恐怖で我を忘れる姿を始めて見ました。ずっと奥様を腕に壊れ物のように大事に抱きかかえて、周囲を完全に無視していました』


ご無事で本当によかったです、と優しく告げられ、改めて助けてくださったお礼を告げた。

依玖さんは笠戸さんを捕まえると、私の身だけを案じてすぐ病院に運んでくれたらしい。


『真っ青な顔で、奥様の体を抱きしめておられました。診察と処置を受けておられる間も、奥様を失ったらと自らの行いを悔いて打ちひしがれていました。正直あんな悲痛に満ちた副社長を目にするのは、心苦しかったです』


立川さんの言葉に、そのときの依玖さんの姿を想像して申し訳なさがこみ上げた。
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