花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
意外な事実に息を呑んだ。

誰もが憧れる容姿と優秀すぎる頭脳、手腕、さらには名家出身という、私には到底手にできないものを得ている彼がそんな焦燥を抱えていたなんて。


「冷静沈着で、どんなときも落ち着いていると賞賛されたが違う。心がなにも動かず、壊れかかっていたんだ」


告げる声は硬く、彼にしかわからない苦悩の深さを思い知った。


「なにをしたいのか、なにに感動するのか、自身の気持ちがわからず、ありのままの感情を表現する方法なんて思い出せずにいた……でも、逢花に出会った」


そう言って、フッと形の良い唇を綻ばせる。


「失意のどん底にいるのに俺の心配ばかりして……初対面の男を丸ごと信じて気遣う。そんな女性に初めて出会った」


長い指が優しく私の前髪に触れる。


「生まれて初めて心から誰かを甘やかしたい、守りたい、笑ってほしいと願ったんだ」


真っすぐな言葉が私の心の中心に深く刺さる。

鼓動がどんどん速まっていく。


「壊れていたはずの心が動く音を、俺は確かにあの瞬間聞いたんだ。きっと、ひとめ惚れだったんだと思う」


「私、あのとき迷惑しかかけてなくて……」


「まったく迷惑じゃなかった、むしろ逢花の世話をやきたくてたまらなかった。そうだな、これも初めての経験だ」


納得するかのようにうなずかれ、驚きで目を見開く。
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