花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
「お前に触れたくて抱きしめたくて、独り占めしたい願望を制御できなかった」


だから抱いた、と悪びれもせずに告げる。


「恋は理屈じゃないと言われる理由がよくわかった」


赤裸々な告白に、体温が一気に高くなる。 


「一番惹かれたのは、逢花がなにも求めず、俺の背景を一切気にしなかったところだ」


そう言って、ふわりと相好を崩す。


「そんなの誰だって……」


「俺には当然の出来事じゃなかったんだ」


きっぱりと否定され、つい先ほど聞いたばかりの過去を思いだす。


「葵家そのものの財力や権力だけを求め、欲する人間を嫌というほど見てきたからな」


彼自身を知らないうえに知ろうともしない私は、とても興味深かったらしい。

与えようとすれば、本気で困った態度をとるのが新鮮だったそうだ。


「もう一度言うがなんの見返りも求めず、俺自身を見て、欲してくれたお前に恋をしたんだ。そんな女性は逢花だけだった」


「ううん、違う。救ってもらったのは私よ。自分を卑下して、傷つくのが怖くて物わかりのいい振りばかりしていたの。でも心のどこかであきらめきれずにいる中途半端な私を見つけて依玖さんは救ってくれた」


自分でも好きになれない、嫌で短所でしかない部分を肯定してくれた。

私の背中を押し、否定せず守ってくれた。
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