花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
だからこそ近づきたいと、似合う人になりたいと願った。

感情のままに、拙い物言いで必死に想いを告げる。

語彙力の乏しさが恨めしく、心の中全部を見せられないのがもどかしい。


「今までの私ならきっと、困難な出来事が生じたり、相手に拒絶された時点で身を引いていたと思う。でも依玖さんにはできなかった。どうしてもこの恋を手離したくなかったの」


どんなに泣いて悲しくても、離れたほうがいいと思っても、好きな気持ちだけは捨てきれなかった。


「たとえ二番目でも、妻でいたいと思ったし、家族でいれば優先してもらえる、そばにいられるって打算的な考えをもっていたくらいなの」


だから、私は全然綺麗な恋なんかしていない。


「本当の私は正直者なんかじゃない。臆病でズルくて、好きな人をどうにかして手に入れたいと願う身勝手な女なの。それでも……」


そばにいたいの、と続く希望は、唐突に彼の唇で塞がれたため、口にできなかった。


「逢花からもらった今までの告白で、一番情熱的で嬉しい。ありがとう」


「私、まだ全部を伝えきれていないのに……!」


「十分届いている。お前がズルいなら俺はもっと卑怯だ。絶対に逃がす気も手離すつもりはなかった」


啄むようなキスを繰り返しながら、依玖さんが続ける。
< 179 / 190 >

この作品をシェア

pagetop