花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
13.ただ愛している SIDE依玖
これまでのすれ違いを解消すべく様々な話をした後、俺は近所の商業施設に夕食の買い出しに行き、食後にはふたりで一緒に入浴した。

入浴の許可は友人からでていたが、昨日の今日で疲れと体力、食欲も低下している逢花が心配だったせいもある。

浴室でも今までの離れていた時間を埋めるように多くの出来事を語り合った。


「自分で乾かせるわ」


「いいから」


遠慮する逢花を半ば強引に足の間に座らせて、リビングで髪を乾かす。

指の間をさらさらと零れ落ちていく感触に、大切な人が腕の中に戻ってきてくれた現実に安堵する。


「ふふ、気持ちいい……」


小さな欠伸をしながら、逢花がつぶやく姿に言葉にできない想いがこみ上げる。

なんで最初からきちんと向き合って話さなかったのか。

実際に口にし、逢花の反応を見て、初めてわかる事柄の多さに改めて驚いた。

今までどれだけ傷つけてきたのだろうか。

本当に最低だったし、今回の件で自分の未熟さを嫌というほど思い知った。

笠戸と対峙し、殴られそうになっている逢花を見た瞬間は一生忘れないだろう。

俺の人生においてあれほど肝が冷えて、怖い出来事はなかった。

今、思い出しても血の気が引いて、体中の血液が凍りそうだ。

愛する人が傷つけられ、傷つく姿は自分が痛めつけられる何倍もつらく悲しいということを初めて知った。

逢花に出会って、数えきれないほどの知らない事柄や感情を経験した。
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