花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
二十八年の人生で一番の注目を浴び、居心地の悪さから下を向く。 

すると、転んで派手に泥が飛び散った真っ白なスカートと無残に破れたストッキングに包まれた足が見えた。


「やはりどこか痛めた?」


頭上からの問いかけに急いで顔を上げ、首を横に振る。


「嘘だったら……キスするぞ?」


グイッと絡ませた指ごと体を引き寄せられ、バランスを崩し、彼の胸に飛び込んでしまう。

至近距離に迫る、整いすぎた面差しに動揺を隠せない。


「う、噓じゃないです!」


口角を上げて、慌てる私を見つめる彼に、ひとりの男性が声をかけた。


「――お待ちしておりました」


「頼んでおいた件はどうなっている?」


「すべて整っております。お花はこちらでお預かりいたします」


どうやらホテルの従業員らしく、穏やかな笑みを浮かべて花束を受け取り、近くに控えていたもうひとりの男性従業員に手渡す。


「お召し物はご連絡をいただきましたら取りに伺いますので、どうぞごゆっくりなさってください」


そう言って、軽く頭を下げた男性従業員に彼が礼を告げ、フロントを通り過ぎて最奥のエレベーターホールへ私の手を引き、再び歩き出した。

目の前で起こった出来事が理解できず、混乱する。


都内の一流高級ホテルに手続きなしで通されるなんて、どういう立場にいる人なんだろう?
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