花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
3.「俺に恋をして」
遠くでドアが開閉する音と話し声が聞こえる。

気になるのに、瞼が重くて目を開けられない。

そのうちに体が心地よい温もりに包まれて、再び意識が遠のきかけたが、眩しさを感じて目を覚ました。


「……起きた?」


すぐそばで響いた低い声に驚き、肩がびくりと跳ねた。


「……う、ん」


「どうした? 怖い夢でも見た?」


大きな手で頭を優しく撫でられて混乱する。

窓には薄いレースのカーテンがかかり陽光が差し込んでいた。

ひとりで眠っていると思ったのになぜか目の前には男性のむき出しの長い腕と鍛えられた胸板が見えた。


……待って、なんで裸なの? 


それに……ここは、どこ?


疑問を感じた瞬間、一気に昨夜の記憶がよみがえった。


そうだ、私、葵さんと……!


「顔色が変わりすぎ。おはよう、逢花」


夢現に感じた温もりは抱きしめられていたせいだと知った。


「お、おはよう、ございます……あの、私、眠って……?」


現状を把握できず、しどろもどろで尋ねる。

同じ寝起きなのに葵さんは昨夜同様の完璧な姿で、寝ぐせも見当たらない。

しかも肩肘をついて半身を起こした色香が凄まじい。

一方の私は入浴もしていないだろうから、化粧が崩れていてひどい状態のはずだ。


「無理をさせたからな……すまない、体は平気か?」


気遣うように尋ねられて頬が一気に熱を持つ。

体、主に下半身が重たい気がするけれど、恥ずかしくて口にできない。
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