花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
「じゃあ、改めて。葵依玖だ、よろしく」


「一路、逢花です。よろしくお願いします」


突然始まった自己紹介に戸惑いつつも、名乗る。

さらにスーツから取り出した名刺を渡されて、両手で受け取った。

私も自分の名刺入れを慌ててバッグから引っ張り出して、手渡す。


【葵株式会社 社長 葵依玖】


重い肩書を見つめていると、綺麗な長い指がスッと名刺を取り上げた。 

ペンでなにかを書き込んで再び渡される。


「俺のプライベートの連絡先だ。逢花も書いて」 


有無を言わせぬ口調で私の名刺を差し出され、素直に従った。


「どうぞ……」


書き終えて渡す際に、微かに触れた指先に小さく心が跳ねた。

連絡先を教えてもらえたのは嬉しいけれど、今後接点があるとは思えない。


もしかして、あの一夜の口止めや警戒のため? 


ドレスは口止め料のひとつ?


服を贈られて浮足立っていた心が萎んだが、誤解や疑念は取り除かなければと、口を開く。


「誰にも口外しませんので、ドレスは贈っていただかなくて大丈夫です」


心配をかけた親友には事情を話してしまいましたが、と早口で付け加えると葵さんは怪訝そうに首を傾げる。


「ちょっと待って、なんの話?」


「この間の件、いえ、私との関係はすべて他言無用って意味ですよね……?」


尋ねると、数回瞬きを繰り返した彼がハハッと大きな声を上げた。


「まさか、そんなわけない……やっぱり可愛くて面白い。俺の勘は正しかったな」


彼の反応に、今度は私が瞬きを繰り返す。
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