花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
「でもこんな高価な贈り物をしていただいても、私には返せるものがありません」


「じゃあ抱きしめさせて」


そう言って、ふわりと私の体を長い腕で包み込んだ。

予期せぬ行動に心音が大きく跳ね上がる。

漂う香りに熱い一夜を否応なしに思い出して、体温が一気に上がってしまう。



なんで、抱きしめるの?


心の奥底から湧きあがる疑問をぶつける間もなく、少しだけ腕の力が緩まり反射的に顔を上げると、綺麗な二重の目が真っすぐに私を捉えていた。

ゆっくり持ち上がった大きな両手が頬に触れて完璧な容貌が傾く。

少しだけ額を掠めた彼の艶やかな髪の感触と吐息に、鼓動がどんどん速まっていく。


少し冷たい唇の感触に、キスされていると遅れて理解した。

状況を整理できずにいる私に気づいているのか、何度も啄むような口づけが繰り返される。

ギュッと彼のスーツの胸元を握ると、キスが深いものに変化した。

唇の合わせ目を舌先で優しく撫で、上唇を甘噛みされる。

甘いキスに頭がぼうっとして力が抜けていく。

唇の端に小さくキスを落とした彼が、フッと吐息を漏らして私を胸に閉じ込めた。

服越しに伝わる速い鼓動とキスの意味に混乱して、どう振舞っていいか困惑する。
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