花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
「俺の直感が逢花は違うと告げていた」
冷静さを欠いていたせいか、連絡先を尋ねるのを失念した。
音信不通になっていた俺を心配した誠からの電話中に、逢花は姿を消していた。
会社訪問も考えたが、立場上、裏を読まれるのも厄介だし、なにより警戒されるのは避けたかった。
「相手の気持ちを考えない冷血男と呼ばれる依玖が女性の連絡先を知りたがるなんてな。加賀谷のご令嬢が聞いたら驚くぞ」
わざとらしく肩を竦めた友人の声に、元婚約者を思い出した。
『依玖は自分が一番好きで、ほかは誰でも同じ順位なの。切なさに胸を焦したり、愛されたくて泣き叫ぶ気持ちが、恋が、わからないでしょ?』
やや釣り目がちの二重の目を挑戦的に俺に向けて、元婚約者の加賀谷美津は半年前に言い放った。
『縁談除けのため便宜上の婚約者とはいえ、私は好条件の結婚相手だったはずよ? なのにあっさり破談にするんだから』
名家と名高い加賀谷家のひとり娘である美津との婚姻は、両家にとってプラス要素だっただろう。
学生時代からの友人、さらに彼女の父が経営している加賀谷商事は日本各所に広大な土地を所有し、堅実な運用をしている点も然りだ。
婚約を周囲に匂わせただけで縁談の持ち込みや娘を利用した罠も激減し、両親からの結婚の催促もピタリと止んで助かっていた。
『少しは未練を感じてよね』
同い年の彼女は鼻に皺を寄せて口にした。
冷静さを欠いていたせいか、連絡先を尋ねるのを失念した。
音信不通になっていた俺を心配した誠からの電話中に、逢花は姿を消していた。
会社訪問も考えたが、立場上、裏を読まれるのも厄介だし、なにより警戒されるのは避けたかった。
「相手の気持ちを考えない冷血男と呼ばれる依玖が女性の連絡先を知りたがるなんてな。加賀谷のご令嬢が聞いたら驚くぞ」
わざとらしく肩を竦めた友人の声に、元婚約者を思い出した。
『依玖は自分が一番好きで、ほかは誰でも同じ順位なの。切なさに胸を焦したり、愛されたくて泣き叫ぶ気持ちが、恋が、わからないでしょ?』
やや釣り目がちの二重の目を挑戦的に俺に向けて、元婚約者の加賀谷美津は半年前に言い放った。
『縁談除けのため便宜上の婚約者とはいえ、私は好条件の結婚相手だったはずよ? なのにあっさり破談にするんだから』
名家と名高い加賀谷家のひとり娘である美津との婚姻は、両家にとってプラス要素だっただろう。
学生時代からの友人、さらに彼女の父が経営している加賀谷商事は日本各所に広大な土地を所有し、堅実な運用をしている点も然りだ。
婚約を周囲に匂わせただけで縁談の持ち込みや娘を利用した罠も激減し、両親からの結婚の催促もピタリと止んで助かっていた。
『少しは未練を感じてよね』
同い年の彼女は鼻に皺を寄せて口にした。