花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
もうこの頃には、逢花は詐欺とは無関係だと俺の直感が告げていた。

それよりも心の底から湧きあがる熱い感情の名前を知りたかった。

だが、理解する前に数枚の紙幣を残して彼女は消えてしまった。

もちろんなにも盗まずに。

予想を上回る行動だらけの彼女に、急速に惹かれた。

そもそもあれほど傷つけられて八つ当たりもせずにいる心の優しさと、全部を引きうける不器用さには驚く。

計算かと思ったが、素の状態なのだと知って、お人よしぶりにさらに驚いた。

流されやすいのかと心配すれば、しっかりした一面もあって、アンバランスさに興味を持った。

俺の名字とホテルマンの対応を見ても俺の素性に気づかない。

というより、関心をもたない姿が新鮮だった。

逢花が消えた後、気になってしまうのは感情が乱れていた夜だったからだと思い込んだ。

だが逢花の姿は薄れるどころか、鮮明に記憶に残っていた。
 
しかも会う手段、理由がない事態にイラ立ちすら感じていた。

逢花に花束を渡したホテルマンに、なぜ引き留めず、俺に連絡しなかったのかと思わず問い詰めたくなるほどに。
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