花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
「依玖、お願いよ! これから打ち合わせだけど時間は合わせるから」
悲痛な加賀谷さんの声をこれ以上聞く余裕がなく、この場を離れようと、震える指で落としたスマートフォンを拾い上げる。
幸いにも液晶画面に傷はなく安堵していると、凛からのメッセージが届いた。
披露宴が終了し、今から会場の外に出るらしい。
力の入らない足で立ち上がると、電話を切ったのか加賀谷さんも腰を上げていた。
「……うるさくしてごめんなさい。席を外すので、ゆっくり過ごしてください」
見ず知らずの私に悲しそうに謝罪し、目を伏せる。
丁寧にマスカラが塗られたまつ毛は長く、陶器のように綺麗な肌に濃い影を落としていた。
「いいえ……私も友人と待ち合わせているので……気になさらずいてください」
返答する声が上ずる。
なぜかとても緊張して加賀谷さんを直視できない。
……電話の内容からして、加賀谷さんは葵さんを今も好きなのだと思う。
なのにどうして婚約破棄をして、新たに婚約したのだろう?
質問ができるはずもないのに、頭の中を疑問が駆け巡る。
葵さんが再び婚約するのは、嫌。
突如、胸の奥底から芽生えた身勝手な願望に狼狽える。
咄嗟にうつむくと、彼が贈ってくれたドレスの裾とパンプスが目に入った。
数日前、抱きしめてくれた彼の体温、腕の感触はすぐに思い出せる。
悲痛な加賀谷さんの声をこれ以上聞く余裕がなく、この場を離れようと、震える指で落としたスマートフォンを拾い上げる。
幸いにも液晶画面に傷はなく安堵していると、凛からのメッセージが届いた。
披露宴が終了し、今から会場の外に出るらしい。
力の入らない足で立ち上がると、電話を切ったのか加賀谷さんも腰を上げていた。
「……うるさくしてごめんなさい。席を外すので、ゆっくり過ごしてください」
見ず知らずの私に悲しそうに謝罪し、目を伏せる。
丁寧にマスカラが塗られたまつ毛は長く、陶器のように綺麗な肌に濃い影を落としていた。
「いいえ……私も友人と待ち合わせているので……気になさらずいてください」
返答する声が上ずる。
なぜかとても緊張して加賀谷さんを直視できない。
……電話の内容からして、加賀谷さんは葵さんを今も好きなのだと思う。
なのにどうして婚約破棄をして、新たに婚約したのだろう?
質問ができるはずもないのに、頭の中を疑問が駆け巡る。
葵さんが再び婚約するのは、嫌。
突如、胸の奥底から芽生えた身勝手な願望に狼狽える。
咄嗟にうつむくと、彼が贈ってくれたドレスの裾とパンプスが目に入った。
数日前、抱きしめてくれた彼の体温、腕の感触はすぐに思い出せる。