花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
……ああ、私、葵さんが好きなんだ。


認めた途端、心の奥底で温かいものがじんわりと広がって、くすぐったくて愛しい。

自然と熱くなる頬と甘い胸の痛みに切なさがこみ上げる。


『気になる時点で、恋をしているの』


少し前の親友の忠告が胸に響く。

一夜だけの関係、なにも知らない男性に恋をすると同時に、失恋も確定した。

味わったばかりの、ふわふわした甘い感情が一気に崩れ落ちていく。

残ったのは息ができなくなるほどつらい、胸の痛みだけ。

きっとふたりは元の関係に戻るはず。

その様子を間近で見たくない。

本当に私には恋愛運が、ない。


「失礼します」


必死に平静を装い挨拶をして、踵を返す。

加賀谷さんの反応を確認する勇気はなく、逃げるようにその場を去った。

凛の元へ戻りながら、しっかりしなさいと幾度となく自分を叱咤する。

一方的に恋して失恋したとはいえ、久喜たちの前で動揺を見せたくない。

大丈夫、今ならまだ恋の傷は深くない。


「逢花、ここよ!」


凛が、会場出入り口から少し離れた場所で大きく手を振っている。

出入口周辺は新郎新婦との挨拶を終えた多くの招待客で混雑していた。


「凛、ありがとう。ごめんね、荷物も任せちゃって」


「大丈夫よ。席にあったものや持ち帰るよう言われたものは紙袋に入れたけど、一応確認してくれる? 忘れ物はない?」


促されて荷物を確認し、化粧室に寄りたいという凛の荷物を逆に預かりその場で待っているうちに、ほかの招待客がどんどん帰っていく。
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