花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
「逢花、やっと見つけた」


断ろうと口を開きかけた私の腰に、大きな手が触れた。

腰にするりと長い腕が回り、ふわりと彼の纏う香水が香る。


「葵、さん……?」


「やっぱりこのドレス、よく似合っている。今度また一緒に買い物に行こうな」


仕立ての良い濃いグレーのスーツを完璧に着こなした葵さんが、相好を崩し私を見つめる。

あきらめなければいけないのに、再び顔を見れた喜びが心を占拠する。

けれど彼がここに来た理由に思い当たり、心が冷えて体が強張っていく。


「えっ、誰!?」


友人の女性の声にハッとする。


「嘘っ、ちょっと先輩、どういうことです!?」


笠戸さんが、なぜか不機嫌な表情と甲高い声で尋ねる。


「突然申し訳ございません。葵と申します」


端正な面差しに甘い微笑みを浮かべた彼が名乗りつつ、スーツの胸ポケットから名刺を取り出し笠戸さんに手渡す。

友人の女性は名刺を横から覗き込んで、声を上げる。


「あ、葵社長!?」


「先輩と、どういうご関係ですかっ?」


興奮した笠戸さんの問いに、葵さんは落ち着いて答える。


「逢花は私の大切な人です」


「えっ……」


思わず声を上げると、彼が優しくさらに引き寄せた。


「元恋人が会場にいると聞いて、心配で迎えにきてしまいました」


笠戸さんの友人に配慮したのか、控えめな嫌味をさわやかに口にする。

笠戸さんの顔は怒りか羞恥なのか真っ赤に染まっている。
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