花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
「ええ、責任を持って連れ帰ります」


「お願いします。噂好きの同僚たちになにか説明が必要ですか?」


「凛!」


社長相手に物おじせずに尋ねる親友に焦る。

私にちらりと視線を動かした葵さんは、なぜか楽しそうに口角を上げる。


「いいえ、これから口説く予定なので大丈夫です」


さらりと告げられて、息を呑む。


「では、逢花をよろしくお願いします」


「ち、ちょっと、凛。なにを言ってるのよ」


「親友としての挨拶よ。じゃあ、また会社でね。社長、お先に失礼いたします」


葵さんが軽く会釈すると、凛は颯爽と去っていく。


「しっかりした、友人思いの女性だな」


彼の感想にうなずきながら口を開く。


「はい、相談にもよく乗ってもらっていますし、大切な親友です」


「どうやら応援してもらえるようでよかった」


「は……い?」


突然怪しくなった話題に戸惑う。


なんの、誰の、応援?


「ねえ、社長よ!」


「さっきSNSに上がっていた、恋人宣言した女性ってあの人?」


ロビーを行き交う人々の声が突然耳に届いた。

スマートフォンのカメラを、大胆にもこちらに向けてくる女性もいる。

サッとうつむいた私の手を、葵さんの大きな温かい手が包み込んだ。


「一緒に来てくれ」


頭上から聞こえた低い声に思わず顔を上げると、真摯な目とぶつかった。

うなずくと、柔らかく目を細めた葵さんが私の荷物を持ったまま歩き出す。

ロビーを出てホテルの外にあるタクシー乗り場へと足を運ぶ。
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